【おおぶね投資先ウォッチ】International Flavors & Fragrancesの企業分析

スポンサーリンク

International Flavors & Fragrances(IFF)の企業分析をお送りします。
香料メーカーとして100年以上の歴史を持つ世界最大手の1社です。足元ではデュポンからの事業買収でも注目が高まっていますね。
大型買収に伴う希薄化などがあり、ここ2年ほど株価はさえませんが、事業自体はしっかりしたものだと思います。

香料は加工食品や洗剤、シャンプーなど身の回りの様々なものに入っています。「鼻をつまんで食べ物を口に入れると味がわからない」と言われるように、実は私たちにとって「香り」は極めて重要です。

香料業界はグローバルに寡占が進んでおり、世界シェアの70%程度を大手の4社が占めており、この大手へのシェア集約が進んでいます。IFFは20%強程度のシェアを持つNo2です。

恐らく人が生きている限り香料の需要は無くなりません。これからも人口増に沿って需要は増えていくものと思われます。

懸念は、相次ぐ大型買収により「企業としての姿」が変わってしまわないかという点。それとやはりこの環境下で高値掴みしているのでは?という点でしょうか。

それではIFFの企業分析、ご笑覧ください。

はじめに~このシリーズについて~

私自身は日本株で運用をしていますが、保有しているeMAXIS Slim 米国株式を経由して米国を代表するような大企業約500社、毎月積み立てているアクティブファンド「農林中金<パートナーズ>長期厳選投資おおぶね」を経由して厳選された強いビジネスを持つ米国企業26社(2019年11月末時点)にも間接的に投資しています。

とりわけ後者については、投資判断を行っているNVICから、月次レポートnoteなどで積極的な情報発信が行われており、保有企業についても詳しく説明してくれています。この「プロの見立て」を参考にしながら自分の運用にも生かしていきたいというのが、私がこのファンドに投資する理由の一つです。(もちろんパフォーマンスも期待しています)

海外企業の分析記事は相当気合を入れないと書けないので、なかなか形になっていないのですが、不定期に1社ずつ調べていきたいと思います。私自身が勉強している立場なので、間違い等気になる点があればぜひご指摘ください。

記念すべき1社目は、執筆時点で直近の月次レポート(上記リンク)で間接的に取り上げられているIFFにしました。

なお、IFFについては過去にも何度か情報発信が行われています。記事の執筆にあたっては、会社のIR資料の他こちらも参考にしています。

2017/7レポート
2019/9レポート
企業紹介動画

IFFの概要

IFFはニューヨークに本社を置く香料メーカーです。
IFFの設立自体は1958年と60年ほどの社歴ですが、1889年にオランダで設立されたPolak&Schwarz(果汁を基にフレーバーを作っていた)と1917年にP&S社の元従業員がアメリカで設立したVan Ameringen Haebler(フレーバー、フレグランス両方を製造)が合併してIFFになっており、業歴としては130年ほどになります。

さて、現社名にもなっているフレーバー、フレグランスという言葉、どちらも「香り」を意味する言葉ですが(前者は「風味」というようなニュアンスでしょうか)、香料業界では、飲食物に入れられる香料を「フレーバー」、香水や日用品(シャンプー、洗剤など)に入れられる香料を「フレグランス」と呼ぶようです。

当社の事業セグメントは、2018年時点ではTaste(フレーバー)、Scent(フレグランス)、Frutarom(2018年に買収したイスラエルの香料メーカー、統合が完了していないため分けられている模様)という3つに分かれています。
Frutarom買収前はTasteとScentの割合が大体半々でしたが、Frutaromの売上は大半がTasteに属するようです。

※Frutaromは4Qのみ計上。通期寄与すると$1.4B程度の売上
※グラフ中の金額は特に表記が無い場合は百万ドルです

世界中の195か国の顧客に製品を提供しており、地域別で見ると満遍なく売上を稼いでいます。

業績と株価

・売上
直近では買収により伸びが大きくなっていますが、通常の年は大体一桁前半%くらいで穏やかに伸びています。

・営業利益
10%台半ばで推移しています。2010年頃から合理化プログラムを走らせ改善しましたが、足元は買収の影響などで低下しているようです。

・フリーキャッシュフロー
設備投資額は大体売上の4%程度で推移しており、設備集約的な事業ではないようです。

FCF=営業キャッシュフロー – 設備投資 で計算しています。               

・ROA
Frutaromの買収で総資産が3倍程度に膨らんだため(総資産の3分の2がのれん等の買収関連無形資産)、直近大きく落ちています。P/Lが通期寄与しても6~7%程度でしょうか。

・株価
ここ2年ほどは冴えない動きが続いています。
・2018年5月:Frutaromの買収。当時時価総額$13B程度の会社が$8Bの買収をしたもので、かなり大きな買収でした。この資金調達のため3割程度の希薄化が起こっています。
・2019年8月:Frutaromの子会社で過去に不適切な会計処理があったことが発覚⇒調査の結果、財務への影響は大したこと無かったようです。
・2019年12月:DuPontの事業買収発表(後で書きます)
市場全体が好調な中で、IFFホルダーにとっては我慢の時が続いているわけですが(他人事ではない)、もうダメぽと考えるか、いまが買いの好機とみるかは買収後の企業価値がどうなるかにかかってきますね。

定性評価

買収について気になるところですが、まずは当社の基礎となるビジネスについて、NVICの掲げる「構造的に強靭な企業®」の3つの定性的要素の観点から見ていきたいと思います。
先に挙げたNVICの見方を参考にしていますが、基本的に私の勝手な解釈なので、眉に唾をつけて読んでいただければと思います。

付加価値(世の中に必要なビジネスかどうか)

私たちが普段口にしている加工食品、パッケージフードであれ、清涼飲料であれ、いまやほとんどのものに香料が入っています。
風邪をひいたときに味がわからなくなるのは鼻がつまるからだと言われますし、試しに鼻をつまんでものを口に入れると本当に味がわかりません。
「味」は基本的に5種類しかないわけですが、実際には私たちはものを食べるときもっと複雑に感じ分けています。そこには「香り」や「食感」などが複雑に影響しているそうです。

皆さんも懐かしい「香り」をかいだ時にその当時のことがフラッシュバックすることってありませんか?
私は年に1回くらい、街を歩いていて昔大好きだった女性が使っていた香水と同じもの(じゃないかもしれませんがよく似た香りのもの)を付けている人とすれ違って、無性に切ない気持ちになりやるべきことが手につかなくなることがあります。何とかあの香水を特定して自分の弱点を把握したいのですが、すれ違った人を追いかけて行って「どの香水使ってるんですか?」と聞くわけにもいきません。。

話が脱線しましたが、「香り」は私たちにとってそれくらい大事なものなのです。

IFFの競合であるスイスの香料メーカーGivaudanのIR資料に面白いチャートがありました(NVICの奥野さんが動画の中で触れられているのもこのチャートだと思います)。
これによると、人は香水を選ぶときは意思決定の78%を香りで選び、同じく食べ物を選ぶときは45%をにおいと味(上記の通り実はにおいが重要)で選ぶそうです。

一方で、顧客である香水や食品のメーカーの原価に占める香料の割合は数%と僅少です。
顧客は製品を売るために極めて重要な香料の品質を妥協してまで、そこにかかるコストを抑えるインセンティブがわきません。

(Givaudan IR Presentationより抜粋)

このように、香料は私たち消費者にとっても、消費財メーカーにとっても、非常に重要なものだといえます。

競争優位性(参入障壁があるかどうか)

先述の通り、世界の香料市場はその7割が大手4社により寡占されています。
中でもGivaudanとIFFが市場シェア20%強でNo1を争っており、ドイツのSymriseとスイスのFirmenchがその後に10~15%程度で続きます。
日本にも高砂香料や長谷川香料といった上場企業がありますが、世界で見るとシェア10位前後にとどまるようです。

2割強ということで支配的なシェアとまでは言えませんが、大手の一角に数えられることはビジネス上重要です。
顧客企業(ネスレやP&Gなどのグローバル消費財メーカーを想像してください)が新製品を開発する際、そこで使われる香料のイメージや価格を「仕様書」にまとめて香料メーカー数社に伝えます(ブリーフィングというそうです)。
香料メーカーはその仕様書によって適切な香料を調合し、顧客企業でコンペにかけられます。
その中で最も製品イメージに近いものが採用されるわけですが、大手以外にはそもそもブリーフィングのお声がかかりません。確かな技術力と世界中で生産キャパシティを持っている大手3~4社に声をかけておけば十分だからです。
中堅以下のメーカーは特定の地域や特定の分野で勝負しており、大手4社とは立ち位置が異なるようです。このシェアは参入障壁といえそうです。

高砂香料の地域別業績。日本に寄っており利益率も低い。

香料は、数千種類の原料からいくつかを調合して作られます。原料の種類や調合割合によって微妙な香りが作られます。
その調合を行う技術者は調香師(フレーバリストまたはパフューマー)と呼ばれ、少なくとも10年以上の経験が必要とされます。
一線級の調香師は世界中に500~600人程度しかいなくて、その数は宇宙飛行士よりも少ないそうです(なんかすごそうですよね)
IFFなどの大手メーカーはそのうち数十~100名程度を抱えており、香料の開発能力という点でも参入障壁を築いています。
パフューマーの中でも一流ブランドの香水を作るような「マスターパフューマー」(なんかすごそうですよね)はIFFの130年の歴史の中でも5人しかいないそうです。

いまなら香りの成分をAIで分析して調合するというようなこともできそうに思ってしまいますが、そういうものではないようです。

また、例えば「カプセレーション」といって、香りの成分をカプセル状に包むことで摩擦や熱でカプセルがはじけたときに香るという技術があります。石原さとみさんがCMしていたようなやつですね。
このような香りを作る以外の技術でもIFFとGivaudanが業界をリードする立場にあるようです。

長期的な潮流(不可逆的な世の中の変化を追い風にできるか)

香料自体は今後も様々なものに当たり前に使用されていくはずなので、世界の人口増加や新興国への消費財の浸透が、当然に追い風になりそうです。

また、顧客である大手消費財メーカーはかつては香料も内製していたものが、製品コンセプトの開発やマーケティングに注力するために、専業香料メーカーにアウトソースする流れがあるそうです。

一方で、気になる点。
IFFによると、従来型の香料自体の市場成長率は2~3%と決して高くはなく、今後は天然素材を使用した香料や植物由来の素材などの成長率が高くなることを見込んでいるようです。
この部分を補完するためにFrutaromを買収したわけですが、天然香料は原料供給が限られており(高品質のバニラはマダガスカル島の特定の村でしか取れないなど)、こっちのウェイトが高くなることで原料調達が成長のボトルネックにならないか、と感じました。

DuPontの事業買収について

さて、同業であり天然素材に強いFrutaromの買収は、Givaudanにシェアで対抗するため、上記の通り成長性の高い分野を補完するためということで理解しやすいです。

一方で、昨年12月に発表されたDuPontのNutrition&Bioscience事業の買収は、少し毛色が異なります。

DuPontは香料は扱っておらず、たんぱく質などの栄養素や、プロバイオティクス、酵素、甘味料、乳化剤など、幅広い食品原料・添加物で高いシェアを持っているようです。

食品メーカーを顧客にするという点では、IFFの既存事業とのシナジーはありそうです。
一例として、DuPontの添加物や植物たんぱく質とIFFの「風味」を使って、もっといい植物肉ハンバーガーが作れると紹介されています。
”がんもどき食っとけよ”派の私としてはなんぼのもんじゃいですが、昨今の風潮的には注目されるんですかね。

たまたま?直近のおおぶねレポートで食品原料でDuPontの競合であるアイルランドのKerry社が紹介されています。KerryはDuPontの買収候補としてもIFFと最後まで競っていたようです。

これによると、幅広い食品原料をそろえ、顧客にワンストップソリューションを提供できることは一定の付加価値になり、特に新興国のローカルブランドへの展開上は有利になるものの、特定の分野に特化する専業メーカーとの比較では、技術面などで競合上不利になる可能性が示唆されています。
そして、レポートは以下のように締めくくられていますが、おおぶねがこの買収をどう評価し、行動するのか、続報に注目しています。

ローカルブランドの発達という潮流の中で、IFFが香料という飲料・食品にとって重要なパーツに特化した企業として、Kerryをはじめ競合企業に劣後することなく、成長を継続し、利益率を維持・改善できるかどうか、注意深く動向を見守りたいと考えております。

なお、今回の買収スキームは以下のようなものです。(完了は2021年初めごろ予定)
①DuPontはN&B事業を分割し新会社を設立
②IFFと分割会社が合併。合併新会社の株式は旧DuPont株主55%、旧IFF株主45%の比率で保有
③合併完了時に旧DuPont株主には$7.3Bの特別配当が支払われる

DuPontの企業価値は、買収発表前のIFF株価$134を基に$26.2B(EBITDA×18.0)と評価されたようですが、発表翌日の株価は$120まで下がっていますので、市場からはいったん高すぎると判断されているということでしょうか。

まとめ

以上、IFFの概要を見てみました。
おおぶねが投資しているだけあって、事業自体はしっかりしていると思います。香料事業は今後も企業価値を生んでいくイメージが湧きました。

一方で、やはり相次ぐ巨額買収は気になります。
IFFはもともと2000年に同業大手を買収($1B程度の取引サイズ、当時としては業界最大規模の買収)しているものの、その後はのれんの金額がほとんど変わっていないところを見ると、買収の経験が豊富な会社ではありません。
2014年ごろからいくつか買収を行い、2018年、19年と巨額の買収を決めています。
特にDuPontに関しては、自分よりも大きな企業を買収することになり、事業としてもこれまでの事業エリアの隣に出ていく話です。企業としての在り方自体が変わってしまうのでは?という懸念は現状ぬぐえません。
買収価格が高いか安いかの判断は私には付きかねますが、この環境下でこれだけの事業を買収して、安いということはなさそうです。会社は売上、コストのシナジーを見込んでいるようなので、それが実現するかどうかで評価が決まってくるのでしょう。

さて、すっかり長文になってしまいました。最後までお付き合いいただいた方、ありがとうございました。
今回、構造的に強靭な企業®の3つの条件をフレームワークとして考えると、ポイントが整理されて個人的には考えやすかったので、今後もこのスタイルで企業を紹介していきたいと思います。

そのパワーがあればね。ふぅ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました