さて、乗りかかった船ということで、三菱UFJ国際投信(以下、MUKAM)さんが新規に設定され、完全成果報酬型としても話題になっている掲題のファンドについて、有価証券届出書を見てみました。
結論から言うと、私的に「面白い!」と感じられるファンドではなさそうなので、私は投資はしませんが、決して成果報酬という仕組みに隠して投資家を「カモ」にしようとするようなファンドではないと思いました。
ご検討される方の参考になればと思い記事にします。
情報の出典は以下です。
・「百戦錬磨の名人ファンド」有価証券届出書
・「日本株プライムニュートラル・ファンド(ラップ向け)」交付目論見書他
概要
「百戦錬磨の名人ファンド」はMUKAMさんが9月23日付で新設するファンドです。
事前報道でも取り上げられている大きな特徴が、基本報酬は受託者報酬の0.04%(税抜、以下同じ)のみとし、運用者報酬(実質的に販売会社報酬を含む)は完全成果報酬としている点です。
販売は直販のみのようです。成果報酬型として先行する「おおぶねグローバル」でも販売会社報酬部分は成果連動にはなっていないので、直販の特色を生かした形です。
肝心の中身ですが、『日本の株式の「買い」と「売り」を組み合わせ、株式市場全体の値動きに左右されない安定的な収益の確保(絶対収益の追求)をめざします。』とされており、所謂「マーケット・ニュートラル型です。
新設ファンドなので運用実績はもちろんありませんが、「日本株マーケットニュートラル・マザーファンド」に投資をするファミリー方式で、マザーファンドの方は相応に長い運用実績と120億円程の純資産額があります。
以下、同じマザーファンドに投資をしている「日本株プライムニュートラル・ファンド(ラップ向け)」(2005年12月設定)の情報を基に、一部推測も交えながらになりますが、このファンドの特色をより詳しく見ていきたいと思います。
Philosophy(運用哲学)
「マーケット・ニュートラル」型とは、値上がりが期待される株式を買い持ち(ロング)する一方で、値下がりが予想される株式または市場指数先物などを売り持ち(ショート)する戦略です。
ロングとショートを同数で持つため、リスクを抑制することができ、見込み通りにロング株式のリターンがショート分のそれを上回れば、市場全体の上げ下げによらずその超過リターン分を収益化することができます。
肝心の株式選択基準について、目論見書ではこう説明されています。
わが国の株式を主要投資対象とし、割安度、成長性といった投資尺度の中から、計量モデルを用いて決定された最適と推測される投資尺度により株式への投資を行います。同時に株式の信用取引等を活用することにより、株式市場の価格変動リスクの低減を図りつつ、安定した収益の確保をめざして運用を行います。

典型的な「価値」ではなく「価格」に着目するファンドと感じられます。
People(運用者)
上記リンクのファンド紹介ページには「運用担当:戦略運用部」という記載があり、下表がリンクされています。

戦略運用部の加藤さんがFMなのでしょうか?よくわかりませんでした。
加藤さんのお名前でググってもめぼしい記事は見つかりません。債券のマネージャーのようなので、別の方が担当なのかもしれません。
Process(運用プロセス)
運用に関しては、上記の「戦略コンセプト」以上の情報は見つけられません。
私が運用と同等かそれ以上に重視しているのが、運用の中身に関する情報発信ですが、月次レポートをいくつかと年次報告書を見る限りでは「よくあるファンド」以上の感想は持てませんでした。
Portfolio(運用ポートフォリオ)
直近の月次レポートによれば、ロングとショートが86%ずつになっています。

投資先(ロング)は333社、上位先は下図の通りです。かなり分散されているとはいえ、それなりに「選ばれている」ポートフォリオのようにも見えますが、惜しむらくその背景が見えてきません。
ショートサイドは、年次報告書を見ても個別株の空売りをしているらしいことしかわかりませんでした。

Performance(運用パフォーマンス)
運用プロセスの詳細がわからないので、正直、パフォーマンスしかこのファンドの良し悪しを判断する基準がありません。
ある意味面白い特徴だと思うのですが、このファンドのベンチマークは「無担保コール翌日物レート」です。これは金融機関が日々の資金を融通しあう短期の金利で、ご案内のとおりの超低金利環境下で足元ではほぼゼロです。
「百戦錬磨の名人」がベンチマークを置くかどうかは定かではありませんが、同じマザーファンドを投資対象とする以上、運用コスト分以外は同じパフォーマンスになるはずです。
成果報酬型でありながら、目標リターンが(足元の金利環境下では)ゼロ+αというのもなんだか不思議な感じですね。
設定来のパフォーマンスです。(表中にDが表示されますが、過去分配は出していません)
15年で21%とはやや物足りない印象になってしまいますが、マーケット・ニュートラルでリスクを抑えながらのパフォーマンスなので、決して悪くはないと思います。
モーニングスターによれば、シャープレシオ(10年)は0.32です。

Price(運用報酬)
話を「百戦錬磨の名人」に戻します。
基本報酬は0.04%(受託者報酬相当)、運用会社報酬は成果報酬型で、ハイ・ウォーター・マーク(HWM)を超過した部分の15%です。HWMうんぬんとは、基準価額が過去最高を更新するたびに、超過分の15%を成果報酬として取るという仕組みです。
販売手数料もありません。
ご参考までに、以前「おおぶねグローバル」の検証用に作ったモデルを使用して、仮に「日本株プライムニュートラル・ファンド(ラップ向け)」がこの報酬体系を採用していたらどうなるか、検証してみました。(参考リンク:おおぶねグローバルの成功報酬が「スッゲー高い」とは思わない)

約15年の累積リターンは+31.6%、累積の成果報酬支払いは約740円(年率換算0.5%)となり、元ファンドの信託報酬1.05%よりも抑えられる結果となりました。
なお、信託報酬以外の所謂「隠れコスト」として、ショートポジションに関する品借料等で約1%かかっています。
まとめ
成果報酬型で話題の「百戦錬磨の名人」ですが、マザーファンドを見る限り、元々がリスクを抑え安定リターンを目指すファンドであり、一部で指摘されているような「成果報酬欲しさに過度にリスクを取りすぎる」ような懸念はなさそうな気がします。
同じマザーファンドに投資する既存のファンドとの比較感でも、良心的な設定と言えるのではないでしょうか。既存のファンドではリターンがマイルドになる局面ではコスト負けしている印象だったのですが、成果報酬型とすることでリターンが出るようになっている気がします。
案外、この手のファンドと成果報酬は相性がいいのかもしれません。
ただ、マザーファンドの目標リターンが足元で「ゼロ+α」であり、過去5年ほどのパフォーマンスが極めてマイルドである点は考慮の必要があるでしょう。運用プロセスの詳細がわからないため、今後もこれまで同様のパフォーマンスを期待していいのかどうかも、判断つきかねます。
私自身が投資をするかというと、冒頭に書いた通りなのですが(そもそも口座持ってないしね)、「面白い」ファンドが良いファンドとはもちろん限りませんし、「面白くない」ファンドが投資に値しない訳でもありません。
投資判断はくれぐれも自己責任でお願いします。
願わくは、完全成果報酬型という点で話題になることのみで終わるのではなく、情報開示等も含めよりとんがったファンドになってくれるといいな、と私は感じました。
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